弁護士 伊東克宏のブログ

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3Dプリンターによって製造したけん銃の所持事件について

3Dプリンターによって製造したけん銃の所持事件について

昨日(5月8日),3Dプリンターを用いてけん銃を作った男性が,銃刀法違反(けん銃2丁の所持)により神奈川県警に逮捕された件で,テレビ局からコメントを求められて取材を受けました。もちろん,当該事件の弁護人ではありません。
テレビ局の方が悪いわけではありませんが(むしろ男前に映していただき,ありがとうございました。),短時間で準備し,記者の方に説明しなければならず,放映されたコメントはごく一部で,なんとなくフラストレーションがたまりましたので,ここで述べたいと思います。

新聞報道によると,3Dプリンターを用いて,けん銃(ようのもの)複数丁を製造し,そのうち2丁について科捜研により弾丸の発射能力ありと認められ,けん銃2丁の所持について逮捕されたようです。

事件の真相はわかりませんので,ここではAさん(架空人)が
① 3Dプリンターを用いて樹脂製のけん銃2丁を作った。
② 3Dプリンターを用いて作成した部品と火薬を用いて,①のけん銃に適合する樹脂製の実包(薬莢に銃用雷管,発射薬及び金属製弾丸を装填したもの)を作った。
③ 近くの公園で試射してみた。
とします。

IMG_1058[1]←これは私愛用のライター。本文とは何の関係もありません。

1 樹脂製のけん銃は,銃刀法(銃砲刀剣類所持等取締法)及び武器等製造法上の「銃砲」か。

銃刀法は,銃砲について,以下のように定義しています。

第二条  この法律において「銃砲」とは、けん銃、小銃、機関銃、砲、猟銃その他金属性弾丸を発射する機能を有する装薬銃砲及び空気銃(圧縮した気体を使用して弾丸を発射する機能を有する銃のうち、内閣府令で定めるところにより測定した弾丸の運動エネルギーの値が、人の生命に危険を及ぼし得るものとして内閣府令で定める値以上となるものをいう。以下同じ。)をいう。

銃砲に当たるためには,①「金属製弾丸」を②発射する機能を有しており③殺傷能力を有していなければなりませんが,銃刀法は,けん銃そのものが金属製であることを要求していません。
ですから,樹脂製のけん銃であっても,上記要件を具備していれば,「銃砲」に当然に当たります。
たとえば,プラスチック製の玩具のけん銃が「銃砲」に当たらないことは当然ですが,それはプラスチック製だからではなく,上記①から③の要件を欠いているからです。
また,「銃砲」に当たるためには,発射できる状態まで完成している必要はなく,一部壊れていたり,未完成だったとしても,容易に手を加えて発射できる状態のものであれば,「銃砲」に当たります(たとえば,故障していたけん銃につき,最高裁24年6月28日判決)。

今回逮捕された事件において,3Dプリンターで製造した樹脂製けん銃は,数個の部品を組み合わせて製作するもののようですが,簡単に組み上げられる物でしょうから,仮に組みあげていない状態で所持していたとしても上記3要件を満たす限り「銃砲」と言え,銃刀法違反,武器等製造法違反として処罰されると考えます。

2 樹脂製の弾丸は,銃刀法上の「金属製弾丸」か。

銃刀法の条文は,前記のとおり,「金属製弾丸」と規定されているわけですが,金属でできた弾丸に限らず,金属と同様の硬度を持ち,人を殺傷するおそれのあるものであれば,非金属製のものでもこれに含まれるとする見解が有力です(司法研修所編「銃砲刀剣類所持等取締法違反の処理に関する実務上の諸問題」法曹会)。
刑事法の分野では,罪刑法定主義の見地から類推解釈は許されないとされていますが,一般人の予測の範疇にある合理的な拡張解釈は許されるとされています。
銃刀法の規制は,けん銃による殺傷能力にこそ意味がありますから,私もここでは上記見解に与したいと考えます(この点,セラミック製包丁を「刃物」に当たるとした東京地方裁判所平成10年1月19日判決が参考になります。)
もっとも,直接に,樹脂製弾丸を扱った裁判例は見あたりませんので,今後の司法判断が注目されます。
なお,「金属性弾丸」とは,金属製の弾丸に限るのだと解釈したとしても,「銃砲」に当たるためには,そのけん銃が,金属製弾丸を発射できる機能を有していれば足ります。たとえば,現実には発射できる弾丸が入手不可能な物だったとしても,上記1の3要件を具備した「銃砲」を所持すれば所持罪として処罰されています(福岡高等裁判所昭和26年3月27日判決)。

新聞報道では,今回の事件について,押収した5丁を科学捜査研究所で鑑定し,2丁について弾丸を発射でき,殺傷能力があると判断したものの,適合する弾丸は見つかっていない,と書かれていましたが,鑑定にどのような弾丸を用いたのか,また,殺傷能力ありと評価した2丁と他の3丁の違いなど,鑑定の方法と結果には興味があります。

3 Aさんに何罪が成立するか。
~単なる所持罪にとどまらず,武器等製造罪,火薬取締法違反,適合実包所持による加重所持罪,発射罪が成立する可能性

①報道された事件では今のところ,けん銃の所持(銃刀法31条の3,1項後段)で逮捕されているようですが,3Dプリンターを用いてけん銃を作ったのであれば,武器等製造罪(武器等製造法31条1項,4条)が成立します。
なお,製造したその場で所持していた場合には,所持罪は武器等製造罪に含まれて評価されますが,たとえば,自宅で製造後,公園で試射している時に逮捕された場合など,その後の所持が独立して評価し得る場合には,製造罪とは別に所持罪が成立します。
ちなみに,製造罪には未遂罪が存在します(武器等製造法31条3項)。
たとえば,3Dプリンターで全部で5個の部品のうち3個を作った時や,1個も作っていなくても,プリントアウトのスイッチを押して3Dプリンターで出力途中の状態にすれば,製造の実行の着手ありとして,未遂罪が成立し得ると考えます。もちろん,設計図どおりに完成すれば「銃砲」になることが前提です。
②さらに,前述したとおりの解釈からは,樹脂製の実包であっても「金属製弾丸」に匹敵するものを製造すれば,「銃砲弾」を作ったものとして武器等製造罪(同法31条の2,4条)が成立し,さらに,けん銃と適合する実包をけん銃と「共に」所持していれば,加重所持罪(銃刀法31条の3,2項)が成立し得ます。
③さらに,公園で試射をしたのであれば,「不特定若しくは多数の者の用に供される場所」でけん銃を発射したことになり,発射罪(銃刀法31条,3条の13)が成立することになります。また,無許可で火薬を爆発させて消費したことになりますから,火薬取締法違反(59条5号,25条1項)も成立し得ます。

報道された事件も,所持罪としてまず逮捕したというだけでしょうから,単にけん銃の所持にとどまらず,これから武器等製造罪をはじめとするその他犯罪についても,起訴の可否についてさらに捜査活動がなされるだろうと想像しています。

4 3Dプリンター出現後の我が国の銃規制のあり方
(1)3Dプリンターの特性
3Dプリンターの特性は,①誰もが(特別な材料や技術がなくても),②容易に,③大量に,様々な立体のコピーを製作できることです。
現行の銃刀法や武器等製造法が,3Dプリンターの出現を予定していたかというと,おそらくは予期していなかったのではないでしょうか。
とはいえ,けん銃を作る方法は,モデルガンを改造したり,工事現場で使うびょう打ち銃を改造したりいろいろで,3Dプリンターだけが悪者にされる理由はありません。
ただ,3Dプリンターによるけん銃の製造が特徴的なのは,PCに設計図をダウンロードし,3Dプリンターにつなぎ,プリントアウトのスイッチを押しさえすれば,誰もが(特別な材料や技術がなくても),容易に,大量に,けん銃を作れる可能性がある点です。
今回報道された事件で作られたけん銃は,見た感じ,比較的単純な構造で,命中精度もそれほど高そうではありませんでした。ただ,今後3Dプリンタ-の性能,材料の品質,3Dプリンターを用いてけん銃を製造する技術が向上していくことは必定です。その気になれば,誰もが,更に高性能なけん銃を,より速く,大量に製造することも可能になっていくかもしれません。加えて,樹脂製けん銃については,金属探知機にかからないという利点も指摘されるところです。

(2)現行法による規制の限界
現行の銃刀法や武器等製造法が,3Dプリンターの出現を予期していなかったであろうことは,前述のとおりですが,樹脂製のけん銃を「銃砲」からはずしているわけでもなく,3Dプリンターが出現したことをふまえて法改正をする必要かあるかは,別個に考える必要があります。
私は,現行の銃刀法,武器等製造法について改正すべき点があるかと聞かれたら,とりあえず次の2点を指摘したいと思います。
1つ目は,すでに述べてきた「金属製弾丸」という文言のことです。
解釈上「金属製」に限られず,とりわけ,3Dプリンターによって樹脂製の銃弾が製造できるようになるなら,規定上も単に「弾丸」とするか,「金属性弾丸」が例示であることを明記するか,解釈上の疑義が出ないようにしておくべきだと思います。
2つ目は,銃砲の製造について,予備段階の行為の処罰規定が存在しないことです。
たとえば,PCに設計図をダウンロードし,3Dプリンターを接続し,材料をセットしただけの状態では,製造の実行の着手があったとは言えず,製造罪の未遂罪としてはまだ処罰できないのではないでしょうか。
3Dプリンターのすごいところは,そこまで準備を整えさえすれば,あとはプリントアウトのスイッチを入れるだけで,比較的短時間に,大量のけん銃が製造できてしまう点です。
近い将来,3Dプリンターを用いて大量にけん銃を製造しようとする者が出現したとしても,けん銃が必要となる直前までスイッチを入れていなければ,その状態では検挙,処罰できないおそれがあります。
あらためて銃刀法を見ると,けん銃の輸入罪については予備行為も含めて処罰対象となっており(31条の12),これと比較しても,国民に及ぼす危険性という意味において,上記のような製造の予備段階の行為を処罰対象に含めることに違和感はありません。
もちろん,処罰対象が拡大しすぎないよう,規定の仕方や適用には注意が必要です。

(3)今後の規制のあり方
報道された事件をふまえても,要するに使う人間が悪いのであって,3Dプリンターが悪いわけではありません。
思い起こされるのは,カラーコピー機が世の中に出回り始めたころ,紙幣を印刷して悪用する犯罪が出現したことです。稚拙な物とはいえ,誰もが,比較的容易に紙幣の偽造ができるようになったわけですが,その後,多くのカラーコピー機に紙幣を認識した場合にはそのままコピーできないようプロテクトする機能が備わったり,それなりの防止措置がとられるようになりました。
これと同様のことができるかどうかわかりませんが,3Dプリンターを製造,販売する側にも,何らかの防止措置を義務づけるなど,法規制がなされて然るべきかと思います。
他方で,3Dプリンターを使うユーザー側に自覚を促すことが,非常に重要だと思います。
おもしろ半分で設計図をダウンロードして3Dプリントアウトのスイッチを押してしまえば,発射できる弾丸がなくても,発射するつもりはなく友人に自慢するために作ったものでも,けん銃を作るという認識がある以上は武器等製造罪が成立し,法定刑の下限が懲役3年以上という重い罪になります(武器等製造法31条1項,3項)。プリントアウトのスイッチを押すときには,刑務所に行く覚悟を決めてもらう必要があります。
ネットオークションに出品するなど,販売するつもりで作ろうものなら,営利目的ということで,無期又は5年以上の懲役になります(武器等製造法31条2項)。
殺人罪は,死刑又は無期若しくは5年以上の懲役ですから,どれほど重い罪であるかわかるでしょう。
自分で作ったものでなくても,友人が作ったものをもらったり,借りたりすれば,譲受け罪,借受け罪が成立し,これも処罰されます(銃刀法31条の4,31条の16)。
公園で試射でもしようものなら,発射罪が成立し,これもまた,法定刑が無期又は3年以上という極めて重い罪となります。引き金を引く時には,殺人に近い重大犯罪をするのだという意識をもってもらわなければなりません。
今回の事件で作られた物の写真を見ると,青だったり黄色だったり,あまりにカラフルで,従来のけん銃のイメージとはあまりにかけ離れた物でした。
ですが,「銃砲」の要件を満たす限り,材料や色にかかわらず,立派なけん銃であるということについて,まずは一般の方にきちんと認識を持ってもらう必要があります。

私も,今回報道された事件について検察庁がどのような起訴をし,裁判所がどのような判決をするのか,注目していきたいと思います。

※以上,弁護士としての私の意見ですが,個人的見解であり,個別事件における結論を保証するものではありません。

(最終更新:平成26年5月9日,弁護士伊東克宏)

2014年5月9日、カテゴリー:「日々あれこれ」(日記), 弁護士 伊東克宏ブログ

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弁護士 伊東克宏

相続・離婚を中心とした一般民事事件のほか,会社法務にも対応。弁護士として10年以上のキャリアを有する。

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