弁護士 伊東克宏のブログ

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元夫が遺した生命保険金~『チームバチスタ4 螺鈿迷宮』を見て

いつもそんなに真剣に見ているわけではないのですが,昨日見たテレビドラマ「チームバチスタ4 螺鈿迷宮」(関西テレビ放送)に,こういう場面がありました。

(ドラマの場面)

    ある末期ガン患者が,ドラマの舞台となる末期治療を専門とする病院におりました。この患者は,工場を破綻させてしまったうえ,末期ガンになり,妻子とも別れ,別れた妻子が暮らしている自宅すら競売されそうだという事情を抱えていました。保険金を早く受け取らせたいので,早く死んでしまいたいと思っていたところ,事情を聞いた柳葉敏郎さんが演じる院長が,この患者を安楽死させてしまいました(正しくは,これから真相が明らかにされるのだと思いますが,とりあえずここではそういうことに。)。患者の死亡後,元夫の遺体と対面した妻と子(10歳くらいかな)に対し,院長が,患者が残した生命保険証書(受取人は妻,受取金は5000万円)を渡して,それを見た妻が,「これで自宅が競売にかけられずに済みます。」と涙ながらに感謝しました。

(ちょっと待って!)
「競売をかけられずに済みます」と妻が言ったということは,「別れた夫の債権者に対してお金を返します」と言うことを意味するわけですが,” 職業病による発作”が生じ,「ちょっと待って!」と叫んでしまいました(心の中でです。)。

(生命保険金を受け取っても元夫の債務を返済する必要はないし,相続したことにもならない。)
工場を破綻させた元夫が,5000万円もの多額の生命保険契約を,解約もせずに残してくれていたことなど,奇跡的なのですから,そのチャンスは大事にしていただきたい。
生命保険金は,受取人に固有に発生するものですから,受取人の妻がこれを受け取っても,元夫の債務を返済する必要はありません。
妻が生命保険金を受け取ったからと言って,子が父親である元夫の相続をしたことにはなりません。
自宅を確保するという理由で,子が夫名義の自宅を相続で取得したりしたら,単純承認となり,子は,自宅だけでなく父親である元夫の債務も一緒に引き継ぐ事になります。
キャッシュで5000万円も受け取れるのであれば,総額でいくらあるのかもわからない元夫の債務を引き継ぐリスクを取らないよう,子には相続放棄させた上,元夫の債務は返済せずに,妻はしがらみのない保険金をありがたくいただいて,妻名義で新しい自宅を購入したほうが良いかもしれないのです。

(別れた夫の負債額は,把握しきれないことも多い。)
抵当権者である銀行と交渉して,滞納していた銀行の負債5000万円を全額支払って完済し,自宅を子に相続させて名義を子にしたところ,実は元夫には,総額1億円の債権者が他にもいて,結局,相続人である子の名義となった自宅に差押えをかけられて自宅を取り上げられたばかりか,子に数千万円の負債が残り,挙げ句自己破産することになりました,なんていう悲しい結末もあり得るわけです。
元夫が,そんな結末を望んでいるはずがありませんが,病気で苦しんでいたわけですから,そこまで考えが至らないこともあると思います。
離婚してからしばらく時間が経過しているようですし,事業をされていた方は,どこでどんな借金があったりするかわからないので,自宅を守るために子が相続しなければならない場面があるとしても,本当に相続して自宅を守る意味があるのか,そこは慎重な判断が必要です。妻が生命保険金を受け取るだけなら,子が元夫の債務を相続する必要はないのですから。

(法律相談のススメ)
なので,この妻は,とりあえず早めに法律相談に行かれた方がよいです。
未成年者の親権者である母は,子を代理して単純承認することができますから,子が相続放棄ができる期間は,母が子の相続開始を知ったときから3か月です(民法917条)。
元夫の負債調査等,委任事項を定めて弁護士に委任してしまった方がよいかもしれません。
たとえば,以下のような事項は,重要なポイントだと思います。

(相談時のポイント)
○ 妻が元夫の債務を保証していた部分はあるか。
妻が,元夫の債務について,連帯保証人にさせられていたりしたら,子が相続するしないにかかわらず,その部分は返済しなければなりません。受け取った生命保険金は、妻の資産ですから、債権者の差押えを受けるおそれがあります。

○ 自宅の名義は元夫か妻か。
元夫の名義のままなら,相続により子が取得する必要が生じます。
財産分与により,自宅が妻の名義に変えられていたとしても,債務が元夫の単独名義であれば,そこでも,支払うべきかどうかは慎重な検討が必要です。

○ 元夫の負債額はいくらか。
元夫の負債が正確に把握できる状況で,思いのほか負債額が少なく,生命保険金の一部から支払えば自宅を確保できるというのなら,返済して自宅を確保してもよいかもしれませんが,更なる債権者が出てくるリスクが無いことが前提です。

○ 競売されるという自宅の金額はいくらか。
負債額が5000万円で,競売されるという自宅の金額が3000万円なら,生命保険金を受領し,自宅をあきらめたが方がよいかもしれません。
逆に,自宅が5000万円の評価で,負債額が3000万円なら,子に相続させて,負債は生命保険金で返した方がいい,ということになるわけですが,負債額の把握が極めて重要になります。

ドラマの一場面ですが,大なり小なり,似たようなケースは意外と多いので,反応してしまいました。
相続してしまっていて,あとの祭りというケースもありますのでご注意を。

ちなみに,「明日ママ」も見ています。

(平成26年2月12日 弁護士 伊東克宏)

2014年2月12日、カテゴリー:「日々あれこれ」(日記), 弁護士 伊東克宏ブログ

弁護士 伊東克宏

弁護士 伊東克宏

相続・離婚を中心とした一般民事事件のほか,会社法務にも対応。弁護士として10年以上のキャリアを有する。

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