事務所からのお知らせ

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税理士会にて「遺言と遺留分に関する研修会」講師を務めました。

平成24年4月26日、東京地方税理士会横浜中央支部にて、盛島満方司法書士とふたりで研修会講師をさせていただきました。

当日の講義の概要を同支部報に寄稿させていただきましたので、こちらにも掲載させていただきます。

遺言と遺留分に関する研修会
-司法書士と弁護士の視点から見た実務のアドバイス

はじめに~遺言が火種となる「争族」
 昨年10月21日に横浜中央支部において,「相続財産の範囲,特別受益,寄与分」に関する講義をさせていただき,その際,選択したテーマに話題を集中させる必要から「遺言や遺留分に関することは次回に。」と申しあげてみたのですが,このたび,期待どおりに続編をさせていただくことになりました。
 さて,相続や遺言に関する知識の普及とともに,遺言の件数は,公正証書遺言で7万件を超え,家庭裁判所で検認を受けた自筆証書遺言の件数で1万3000件を超えるなど,増加の一途にあります。その一方で,内容に無理のある公正証書遺言,形式に不備があって無効となる自筆証書遺言や,効力に問題がなくても一部相続人の遺留分を無視した遺言など,「争族」の火種となる遺言を目にすることも多くなりました。
 弁護士が扱う調停や訴訟となった相続案件の多くは,このような「争族」化した案件であるわけですが,もう少し慎重に遺言を作成してくれていれば,あるいは,こんな遺言がなければ争わずに済んだのに,と思うことが少なくありません。
  今回は,遺言作成や登記実務の経験が豊富な盛島満方司法書士にも講師として加わっていただき,「司法書士と弁護士の視点から見た実務のアドバイス」として,本講義を企画させていただきました。

遺言-実務に基づいた遺言作成・手続きの留意点
 盛島司法書士には,遺言作成全般について講義をしていただきました。
 たとえば,自筆証書遺言などでよく見られる例として,遺贈と「相続させる」遺言の違いを理解せず,両者を混同して使ってしまっていることがありますが(たとえば,「この土地を甲に遺贈して相続させる」などの記載),皆さんは,次のアとイの違いを説明できるでしょうか。
ア「甲に,A土地とB土地を遺贈する。」
イ「甲に,A土地とB土地を相続させる。」
 上記アの遺贈の場合,甲は,欲しいA土地だけをもらって,欲しくないB土地を受け取らないこと(遺贈の放棄)が可能ですが,イの「相続させる」遺言は,遺産分割方法の指定ですから(最判H3・4・19),原則として甲は,遺言に基づき,相続して両方の土地をもらうか,相続放棄をして両方とももらわないか,いずれかを選択することになります。
 そのほか,盛島司法書士からは,遺言者の意思を実現するには,法律上の効力はなくても,「付言」(遺言中に記した推定相続人等に対する遺言者の希望や遺したい言葉)が「争族」防止に有効であることなど,経験に基づく貴重な指摘を受けたほか,公正証書遺言検索システムや,尊厳死宣言公正証書などについても紹介していただきました。

遺留分-遺留分に関する紛争の予防と訴訟による解決
  遺留分については,私が担当させていただきましたが,具体的事例としていわゆる事業承継の事例をあげ,「事業承継対策」のカテゴリー(①会社対策,②相続人対策,③相続税対策)の中でも,②相続人対策,とりわけ遺留分に焦点を当てた紛争予防策を検討していくというスタイルで始めさせていただきました。

講義の中で掲げた「事業承継における遺留分に関する紛争の予防策」は,概略,以下のとおりです。

1 予め遺留分の請求をしないことなどの約束をとりつけておく。    
(1)遺留分の事前放棄                                                   
(2)中小企業経営承継円滑化法に基づく「除外合意」「固定合意」           
2 できる限り遺留分が発生しないようにしておく                           
(1)推定相続人を増やし,遺留分を請求する非後継者の個別的遺留分を減らす。
(2)遺留分が生じないように非後継者にも相続財産を割り当てておく。       
   たとえば,生前贈与や無議決権株式,自益信託の活用など。             
(3)非後継者の特別受益の存在や,後継者の寄与分の存在を明らかにしておく。
   立証責任は後継者にあり,証拠化しておくことが重要である。           
(4)相続財産(自社株,事業用資産等)の評価引き下げ策                   
   ただし,民法上の評価は,税法上の評価と異なる。                     
3 遺留分を請求されても,現金その他で支払えるようにしておく。           
  たとえば,後継者の役員報酬の引上げ,生命保険金,退職金の活用など。   
4 遺留分を請求された結果,共有状態が生じることをできるだけ避ける。     
  たとえば,重要な事業用資産は早めに後継者に譲渡しておくことなど。     

 もとより,実際の事業承継の現場では,①会社対策(後継者の育成や支配権の維持等)に始まり,様々な問題が複雑に絡み合うわけで,②相続人対策だけでも,③相続税対策だけでもなく,多角的な視点から予測と対策を検討していかなければなりません。ただそのせいか,事業承継対策について論じる場合に,上記①,②,③のいずれの視点からの結論であるのか,明確に整理できていないことも多いように感じます。本来は,①,②,③のいずれを重視するのかによって,選択される方針も異なってくるのではないでしょうか。ここでは,②相続人対策から遺留分に焦点を当てた対策を並べてみましたが,①会社対策から経営支配にだけ焦点を当てた対策,③相続税対策から節税効果にだけ焦点を当てた対策も,是非検討してみたいといころです。
 また,今回の講義の中で,特に強調したのは,遺留分減殺請求をされた結果,重要な資産が共有状態となることをできるだけ回避してほしいということでした。遺留分減殺請求の効果は,現物返還(不動産なら所有権移転)が原則です。遺留分減殺請求の後,価額弁償ができないままでいると,不動産の場合には請求者と被請求者との共有状態となります。共有状態を解消するためには,遺留分減殺請求訴訟の後,共有物分割請求訴訟,更には強制競売によって解決を図ることになりますが,そこに至るには,請求する側にも請求される側にも相当な時間,手間,費用がかかる上,どちらの得にもなりません。  

結び
 税理士の先生方の前で話をするのは,本当に緊張しますが,準備も含めて楽しい時間でもあります。やる気ばかりで消化不良にさせたところもあったと思いますが,受講者の皆様には,最後までご静聴いただき,本当にありがとうございました。「再登板」の機会を与えていただいた横浜中央支部の皆様に対し,深く感謝申し上げます。 以上

2012年6月1日、カテゴリー:事務所からのお知らせ

弁護士 伊東克宏

弁護士 伊東克宏

相続・離婚を中心とした一般民事事件のほか,会社法務にも対応。弁護士として10年以上のキャリアを有する。

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