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『高校教師』は犯罪か(18歳未満児童との性的関係)~「男と女の法務」より

今回は,教師が女子生徒と性的関係をもった場合にどのような犯罪が成立し得るかというテーマで書いてみます。

その昔,TBS系で『高校教師』というドラマをテレビでやっていましたが,CMなどを見ていると,最近でも,“教師と生徒の恋愛”をテーマにした映画が相次いで上映されるようです。

ドラマや映画の内容もよく知りませんし,以下,テキトーに場面設定します。

高校教諭のI先生は,妻がいましたが,女子生徒Sさん(17歳11か月)に恋愛感情を持ち,以下のような行為を行いました。
① Sさんの同意の上で,Sさんの胸や臀部(お尻)を触りました。
② Sさんの同意の上で,Sさんと性行為を行いました。
③ Sさんに対価を支払って,Sさんの同意の上で,Sさんと性行為を行いました。

①のケース「Sさんの同意の上で,Sさんの胸や臀部(お尻)を触りました。」
この場合,I先生は,「青少年に対し,みだらな性行為又はわいせつ行為をしてはならない」とする青少年保護育成条例に違反し,「2年以下の懲役又は100万円以下の罰金」に処せられる可能性があります。(なお,18歳未満の既婚者を「青少年」から除外するかなど,都道府県ごとに条例の内容が若干異なりますので各条例をご確認ください。)
同条例の目的は,青少年保護育成であり,同意の上だから許されるというものではありません。
通常は,Sさんやその親の告訴や被害届を待って捜査開始ということになると思いますが,条例の構成要件自体は,対象者となる青少年の同意の有無も,処罰意思の有無も必要としていないことに注意が必要です。
また,I先生の行為が,更に度を過ぎたものであれば,後述する「児童に淫行をさせる行為」をしてはならないという,児童福祉法34条1項6号に違反,「10年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し,またはこれを併科」(同法60条1項)という刑罰に処せられる可能性があります。
「淫行」には性行為だけでなく,性行為類似行為(たとえば,児童に密室で自慰行為をさせる,など)も含まれるとされています。

②のケース「Sさんの同意の上で,Sさんと性行為を行いました。」
この場合,I先生は,「児童に淫行をさせる行為」をしてはならないという,児童福祉法34条1項6号に違反,「10年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し,またはこれを併科」(同法60条1項)という刑罰に処せられる可能性があります。
条文上,「淫行をさせる」と書かれているので,自分以外の者と性行為をさせる場合だと誤解されるかもしれませんが,他人を相手方として淫行させる場合だけでなく,自らその相手方となる場合も含まれる(平成10年11月2日最高裁決定)とされています。
同法の目的は,児童福祉ですから,当然,Sさんの同意があっても立派に犯罪として成立することになります。
ただし,「させる行為」と言えるためには,直接たると間接たるとを問わず児童に対して事実上の影響を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し促進する行為でなければならず,そのような行為に当たるか否かは,行為者と児童の関係,助長・促進行為の内容及び児童の意思決定に対する影響の程度,淫行の内容及び淫行に至る動機・経緯,児童の年齢,その他当該児童の置かれていた具体的状況を総合考慮して判断する(平成28年6月12日最高裁判決)とされています。
ちなみに,上記平成28年6月12日最高裁判決は,高校の常勤講師が当時16歳の生徒とホテルで2回関係をもったとして起訴された事案でしたが,同事案では,懲役1年6月(執行猶予3年)の刑が確定しています。
なお,「性行為」を行ったのであれば,上記青少年保護育成条例にも違反することにもなります。
児童福祉法違反の「させる行為」に当たるか否か,事案の軽重によって,同条例違反の適用に留めるケースもあると思われます。

③のケース「Sさんに対価を支払って,Sさんの同意の上で,Sさんと性行為を行いました。」
この場合,I先生は,「対償を供与し,当該児童に対し,性交等」をした者として,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律2条に違反し,「5年以下の懲役又は300万円以下の罰金」(同法4条)に処せられる可能性があります。
I先生がSさんに対して金銭的な誘惑しかしていない場合に,上記「させる行為」に当たるかという問題がありますが,教師と生徒の関係などから事実上の影響があったとして上記児童福祉法34条1項6号にも違反するということになれば,観念的競合と言って,「1個の行為が2個以上の罪名に触れ」る場合として,「その最も重い刑により処断され」ます(刑法54条1項)。
この場合,児童福祉法違反の方が刑が重いですから,結局,「10年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し,またはこれを併科」により処罰される可能性があるということになります。

改正刑法(平成29年法律第72号)が新設した監護者わいせつ罪及び監護者性交等罪
 ①~③全てのケースに関係する話として,平成29年7月13日から施行された改正刑法により新設された,監護者わいせつ罪及び監護者性交等罪についても触れておきたいと思います。

【刑法179条】
1.18歳未満の者に対し,その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為をした者は,第176条の例による。(第176条:強制わいせつ罪「6月以上10年以下の懲役」
2.18歳未満の者に対し,その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等をしたものは,第177条の例による。(第177条:強制性交等罪「5年以上の有期懲役」

該当するケースは稀だと思いますが,通常の教師と生徒の関係を越えて,I先生がSさんを「現に監護する者」に当たる場合(たとえば,寮で生活全般の面倒を見ている,などはこれに当たるのでしょうか?),「Sさんの同意があった」としても,「監護する者であることによる影響力があることに乗じて」Sさんと,わいせつ行為や性交等に及んだ場合には,強制わいせつ罪,強制性交等罪(旧「強姦罪」)と同様に,刑法で処罰される可能性があります。
改正刑法により,強制わいせつ罪,強制性交等罪は非親告罪になり,Sさんの告訴や処罰意思がなくても,捜査,起訴できるようになりました。
また,「性交等」とは,「性交,肛門性交又は口腔性交をした」場合を言いますので(改正刑法第177条),一般的な「性交」よりは広い行為で捉えていることにも注意が必要です。

以上,生徒の同意があっても『高校教師』には各種犯罪が成立し得ます,というお話でした。

こういう話をすると,「Sさんを18歳だと思っていたら?」とか,「I先生が独身だったら?」「真剣交際なら『みだらな』とは言えないのでないか?」といった質問が聞こえてきそうですが,そう言う弁解が通るかとか,立件されるレベルかとか,具体的な結論は事案に応じてケースバイケースだろうと思います。
とりわけ「みだらな性行為」「淫行」に当たるか否かは,「青少年保護」「児童福祉」の観点から,最終的には裁判所が判断するものですので,当事者の感情や期待だけで楽観視することは避けるべきでしょう。

本気で心配されるような状況(あるいは告訴等を検討される状況)でしたら,是非法律相談にいらしてください。

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2017年10月15日、カテゴリー:「男と女の法務」

弁護士 伊東克宏

弁護士 伊東克宏

相続・離婚を中心とした一般民事事件のほか,会社法務にも対応。弁護士として10年以上のキャリアを有する。

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