弁護士 伊東克宏のブログ

Katsuhiro Ito's Blog

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犬の養育費

Q:「結婚5年目になりますが,この度,夫と離婚することになりました。夫との間には3歳になる子がいます。子は私が育てていくことで合意しています。そのほか,現在4歳になる飼い犬のプードルがいますが,その犬も私が引き取ることになりました。えさ代,病院代,定期的なトリミング代などを含めると,毎月2万円以上かかります。これから自宅を出て,犬を飼ってもよい住居を探さなければなりませんが,そうしたところはどうしても家賃が高めになります。子の養育費は当然として,夫に対し,犬の養育費も請求できませんか。」

A:犬は,法律上「物」であり,「子」ではありませんから,養育費(民法766条1項)としての請求はできません。
 しかし,犬を飼うことになった経緯(二人で決めた等),離婚後に夫婦の一方が飼育することになった理由に照らし,財産分与の場面で考慮すべき事情(たとえば,処分不可能な負の財産)として斟酌されてよいケースもあるのではないでしょうか(私的な意見です)。

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これまで離婚事件に数多く携わってきましたが,離婚後の飼い犬の飼育負担が重荷になるケースというのは,相当数見てきました。
犬種や飼い方にもよりますが,えさ代,病院代,定期的なトリミング代など,毎月の経済的負担は少なくありません。二人で飼っていれば負担に思わなかったことも,一人で飼育するとなればかなりの負担になります。
たしかに飼い犬は法律上は「物」ですが,当事者にとって家族(我が子)同然ですから,家具などのように「離婚することになりました。二人とも飼わないなら処分しましょう。」というわけにもいきません。
もしふたりで飼い始めた犬であるのに,夫の言い分が「お前が飼えばいい。お前が飼うのだからオレは負担しない。」といった一方的なものなら,いささか身勝手で不公平であるように思います。(もちろん,夫もむしろ自分が飼いたいと考えている場合,妻が夫に断りなく飼い始めた場合など,実際のケースは様々です。)
この点,裁判所の判断はどうかというと,これについて言及している裁判例は見当たらず,実務上はおそらく,「犬の養育費」相当額の負担を他方に求めても,判決で考慮された事例はほとんど無いのではないかと思います。
しかし,夫婦の一方が,処分不可能な経済的負担のある財産を引き継ぐのだと理解すれば,たとえば,「過去の月額平均の飼育費用×犬の平均余命(月)×何割か」を基準に,財産分与の場面において,負の財産を引き継ぐものとして夫に応分の負担を認める判断も,あってよいのではないかと思います(私的な意見です)。
また,判決で認めてもらうのは困難であっても,協議,調停,訴訟上の和解の場面において,負担を財産分与の中で考慮したり,毎月の負担を約束してもらえれば,その合意は法律上有効です。
まだ話し合いができる状況であれば,他の離婚条件と合わせて,将来の負担も含めた飼い犬の行く末についても提案し,協議していただきたいと思います。提案する場合には,他の離婚条件と合わせた提案の仕方も大事だと思いますので,是非法律相談にいらしてください。
(最終更新:平成28年11月10日)

2016年11月10日、カテゴリー:「日々あれこれ」(日記), 弁護士 伊東克宏ブログ

弁護士 伊東克宏

弁護士 伊東克宏

相続・離婚を中心とした一般民事事件のほか,会社法務にも対応。弁護士として10年以上のキャリアを有する。

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