弁護士 伊東克宏のブログ

Katsuhiro Ito's Blog

トップページ > 弁護士 伊東克宏のブログ

日本版「リベンジポルノ防止法」を活かす!~「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律」~

日本版「リベンジポルノ防止法」を活かす!

平成26年11月19日,日本版のリベンジポルノ防止法である「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律」が,国会で成立しました。

同法律は,内閣法制局のホームページを見ると,平成26年11月27日に公布されており,付則により,原則として同日から施行となります。ただし,罰則規定である第3条は,「公布の日から起算して20日を経過した日」から施行することになっているので,罰則規定の施行は平成26年12月17日になります。

安部総理が,このたびの衆議院解散を宣言する直前に,国会で成立した法律であり,解散の話題にかき消されてあまり話題になりませんでしたが,被害者救済の場面では,それなりに活用領域が広く,かつ,使い方によってはかなり使える武器になりそうです。

同法律の成立により,安易に,プライバシー性の高い性的な画像を,相手方の許可なく流出させると,意図,目的にかかわらず,刑事罰が科されることになりますので,注意が必要です。

ここでは,第2条の「私事性的画像記録」「私事性的画像記録物」の定義,第3条の「公表罪」「公表目的提供罪」について,コメントしたいと思います(ただし,以下の条文は,「法律案」より転記)。

  • 第2条(定義)
    1 この法律において「私事性的画像記録」とは,①から③までのいずれかに掲げる人の姿態が撮影された画像(撮影の対象とされた者(以下「撮影対象者」という。)において,撮影をした者,撮影対象者及び撮影対象者から提供を受けた者以外の者(第3の1において「第三者」という。)が閲覧することを認識した上で,任意に撮影を承諾し又は撮影をした者を除く。2において同じ。)に係る電磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって,電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。2において同じ。)その他の記録をいうこと。
    ① 性交又は性交類似行為に係る人の姿態
    ② 他人が人の性器等(性器,肛門又は乳首をいう。)以下2及び3において同じ。)を触る行為又は人が性器等を触る行為に係る人の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
    ③ 衣服の全部又は一部を着けない人の姿態であって,殊更に人の性的な部位(性器等若しくはその周辺部,臀部又は胸部という。)が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するもの
    2 この法律において「私事性的画像記録物」とは,写真,電磁的記録に係る記録媒体その他の物であって,1の①から③までのいずれかに掲げる人の姿態が撮影された画像を記録したものをいうこと。

1項は画像データ,2項は写真等の有体物のことを言っており,2項によって,データの流出だけでなく,写真等の公表も処罰対象に含まれることになります。
こうなると,刑法175条のわいせつ物頒布等の罪と処罰対象がかなりかぶるわけですが,①,②,③号の定義から,「私事性的画像記録物」の概念は,「わいせつ物」の概念よりも幅広く,かつ,構成要件該当性の判断がしやすいように思います。

①号は,AとBがセックスしている行為を,②号はセックスまで至らなくても,AがBの性器を触るなどの行為を,③号はBひとりだけで性器を撮影されているような場面を想定しているものと思われます。

  • 第3条(罰則)
    1 第三者が撮影対象者を特定することができる方法で,電気通信回線を通じて私事性的画像記録を不特定又は多数の者に提供した者は,3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処すること。
    2 1の方法で,私事性的画像記録物を不特定若しくは多数の者に提供し,又は公然と陳列した者も,1と同様とすること。
    3 1又は2の行為をさせる目的で,電気通信回線を通じて私事性的画像記録を提供し,又は私事性的画像記録物を提供した者は,1年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処すること。
    4 1から3までの罪は,告訴がなければ提起することができないこと。
    5 1から3までの罪は,刑法第3条(国民の国外犯)の例に従うこと。

1項,2項の罪が成立するためには,構成要件上,「第三者が撮影対象者を特定することができる方法で」公表することが必要です。

「第三者」が特定できる方法なので,本人にしかわからないというのはダメだということになりますが,本人以外の者がわかればよく,たとえば,同僚や友人が見てAさんだとわかる画像であれば,「撮影対象者を特定することができる方法」で公表したと言ってよいと思います(当職見解)。
それから,公表の方法を制限していないことも注目されます。インターネット上の画像流出はもちろんのこと,写真をばらまく,多くの人が見る場所に貼り付けることも,この法律で処罰されます。

ストーカー行為等の規制法等に関する法律(以下,「ストーカー規制法」という。)との対比で言えば,この法律の活用領域が広いと思うのは,次の2点です。
第1に,「恋愛感情・・又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の情」といった行為者の主観・感情に左右されることなく,ただ“行為”のみをもって,構成要件の認定が可能だということです。「リベンジ(復讐)のつもりではなかった」と弁解したところで,この法律の適用においては意味をなしません。
第2に,現在のストーカー規制法では,いわゆるソーシャルネットワークサービスによる攻撃が対象からはずれていますが,この法律は前述のとおり手段を限定していません。たとえば,画像を拡散させるつもりで,LINEで知人に,元恋人の「私事性的画像記録」を提供するといった行為は,3項の処罰対象となってきます。

なお,日本人のAが,外国のPCを使って,Bの「私事性的画像記録」を拡散させた場合も処罰対象となります。

いわゆるリベンジポルノの被害は,時に,身体に対する攻撃以上に,被害者に対し,精神的に,また,社会的に深刻なダメージを与えるものです。
法治国家では,復讐を権利として認めておらず,リベンジポルノを正当化するものは何もないはずです。
一般人から考えて,およそやってはいけない行為を規制し,かつ,構成要件を明確にしてこれを規制しやすくしたという意味において,この法律は評価に値するものと思っています。

(最終更新:平成26年12月10日 弁護士 伊東克宏)

iphone-261126 017

2014年12月10日、カテゴリー:「日々あれこれ」(日記), 弁護士 伊東克宏ブログ

弁護士 伊東克宏

弁護士 伊東克宏

相続・離婚を中心とした一般民事事件のほか,会社法務にも対応。弁護士として10年以上のキャリアを有する。

プロフィール

お問い合わせ・法律相談のご予約

当事務所へいらっしゃる方は「弁護士に相談をするのは初めて」という方が少なくありません。
ご不明な点がありましたら遠慮なくお問い合せください。

Pagetop