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個人税理士間の事業承継契約書

平成25年10月21日,東京地方税理士会中央支部において,「税理士事務所の事業承継」について講義をさせていただきました。同講義の中で,個人税理士間の事業譲渡契約書について紹介をさせていただきましたが,受講者の方から要望がありましたので当HP中に掲載させていただきます。
なお,あくまでも1つの参考例としてお示ししているものにすぎず,また,内容についての責任は負いかねますのでご了解願います。

(想定事例)
『東京太郎先生は,長年個人で税理士事務所を営んできました。東京先生は,余生を外国で楽しく過ごすため,顧問先,事務所備品,従業員,事務所(賃借物件)一切を,税理士会の会合で知り合い,周囲の信頼も厚い中央花子先生に譲渡することにしました。
この際,きちんと契約書を取り交わしておきたいのですが,どのような契約書を作成したらよいでしょうか?』

事業譲渡契約書

※後述しますが,顧客の紹介は「事業譲渡」とは異なります。違和感を感じる方は,「事業譲渡」という言葉を避け,他の言葉(「事業承継」など)を使ってもよいでしょう。ここでは,あくまでも当事者間の契約書であり,当事者間の実態としては譲渡に近いという観点から,敢えて「事業譲渡」という言葉を使ってみました。

甲:東 京 太 郎
乙:中 央 花 子

税理士東京太郎(以下,「甲」という。)と税理士中央花子(以下,「乙」という。)は,甲の乙に対する東京地方税理士事務所(所在地:横浜市西区花咲4−106)の事業譲渡に関し,次のとおり契約する。

第1条(事業の譲渡)

甲は,本契約に定めるところにより,甲が行う事業のうち以下の事業を乙に譲渡し,乙はこれを譲り受ける。
(1)東京地方税理士事務所における税理士業務一切
(2)東京地方税理士事務所における保険代理店業務一切
(3)その他上記1,2に関連する業務一切

※特に個人で税理士業務以外の業務も行っている場合は,トラブル防止のため,譲渡する事業内容を特定した方がよいでしょう。なお,税理士法人は,基本的に,税理士法2条1項,2項に規定する業務以外提供できないので,保険代理店業務などは承継できません(同法48条の5)。

第2条(クロージング日)

本件事業譲渡の効力発生日(以下,「クロージング日」という。)は,平成25年11月15日とする。ただし,手続上の理由その他必要があるときは,甲と乙は,協議の上,クロージング日を変更することができる。

※通常,契約締結日に譲渡完了とはいかないので,クロージング日を設定することになります。

第3条(譲渡資産)

甲は,本件事業譲渡に伴い,本契約の各規定及び条件に従い,別紙「資産一覧表」記載の資産(以下,「本件譲渡資産」という。)を,クロージング日をもって乙に譲り渡し,乙はこれを譲り受けるものとする。
2 甲は乙に対し,本件譲渡資産を,現状有姿のまま譲渡するものとし,甲及び乙は,かかる譲渡及び引渡しのために必要な手続きを,相互に協力して行うものとする。

※トラブル防止のため,できるだけ譲渡資産を特定しておかれるべきです。

第4条(債務の承継)

乙は,本件事業譲渡により,甲から,クロージング日の時点において,本件譲渡対象事業に関し既に発生している一切の債務を引き受けないものとする。

※乙が債務を引き受ける契約内容とすることも可能です。ただし,免責的債務引受については,債権者の同意が必要です。

第5条(契約上の地位の移転)

甲は,本件事業譲渡に伴い,本契約に定める条件に従って,クロージング日をもって,別紙「承継契約一覧表(一般)」に記載された契約に基づく甲の契約上の地位及びこれに基づく権利義務の一切を乙に移転し,乙はこれを承継するものとする。
2 甲は,本件事業譲渡に伴い,本契約に定める条件に従って,クロージング日までに,別紙「承継契約一覧表(顧問)」に記載された契約について,当該契約上の地位の移転に代えて,当該契約の相手方当事者との間で当該契約を解約し,当該相手方当事者をして,乙との間で,甲及び乙で別途協議し決定した内容に従った条件の新規の契約を書面にて甲の責任において締結せしめるものとする。
3 甲は,前項により乙が,新規の契約を締結に向けた手続を行うにあたり,協力をしなければならない。

※「承継契約一覧表(一般)」は,たとえば,事務所の賃借契約,備品のリース契約などを予定していますが,これらは通常,契約上の地位の移転には,大家,リース会社の承諾を得ることが必要です。 ※税務顧問契約は一身専属的にしか成立し得ないという考えからは,顧問契約について契約上の地位の移転はあり得ません。この点,本契約書では,顧問契約の移転について,甲の解約と新規契約の義務化という形で規定しています。

第6条(譲渡価額及び支払方法)

本件事業譲渡の対価は,金1000万円(消費税・地方消費税別)とする。
2 本件譲渡価額の支払は,分割払いとし,その分割方法及び支払時期は,以下のとおりとする。
 クロージング日 500万円
 クロージング日の翌月から毎月末日限り(50回) 10万円
3 支払方法は,甲が指定する銀行口座に振込送金することとし,振込手数料は,乙の負担とする。

※顧問契約の承継がうまくいかなかった場合など,価額の決定に条件設定をすることも可能です。

第7条(従業員の取扱い)

本件事業に従事している甲の従業員の取扱いについては,各当事者協議の上,決定する。

※従業員の承継は,従業員の同意がなければできません。従業員の同意があることが前提ならば,甲乙間の契約として,乙に従業員の承継を義務づける内容で契約することも可能です。顧問先を確保するために事務員に残ってもらうことが必要であれば,乙の雇用条件や方針について事務員の理解を得ておくことは,特に重要だと思います。

第8条(善管注意義務)

甲は,本契約に別途定める場合を除き,本契約締結日からクロージング日までの間,善良なる管理者の注意をもって本契約締結日以前と実質的に同一かつ通常の方法により事業の運営及び財産の管理を行うものとする。

第9条(情報の提供)

甲は,本契約締結日以降,乙及び乙の代理人に対し,本件事業に関する情報を合理的な範囲で提供し,かつ,合理的な範囲でその複製等を許諾する。

第10条(表明及び保証)

甲は,以下の各事項が,本契約締結日及びクロージング日において真実かつ正確であることを表明し,保証する。
(1)甲は,本契約の締結及び履行につき,法令その他必要とされる一切の手続を完了していること
(2)甲による本契約の締結又はその履行は,法令,第三者との契約に違反するものではないこと
(3)本件事業譲渡に悪影響を与えるおそれのある継続中の訴訟,調停その他司法手続又は行政手続きが存在せず,かつ,発生するおそれもないこと
(4)甲と従業員との間に,本件事業の運営に支障をきたす紛争,トラブルが存在しないこと
(5)甲と顧客との間には,本件事業の運営に支障をきたす紛争,トラブルは存在せず,また,乙との顧問契約の締結に同意していること
(6)譲渡財産について,瑕疵及び担保等の負担が存在しないこと
2 乙は,以下の各事項が,本契約締結日及びクロージング日において真実かつ正確であることを表明し,保証する。
(1)乙は,本契約の締結及び履行につき,法令その他必要とされる一切の手続を完了していること
(2)乙による本契約の締結又はその履行は,法令,第三者との契約に違反するものではないこと

※表明及び保証の内容は,譲渡財産の内容等により様々です。

第11条(クロージングの前提条件)

本契約の各条項に基づく,甲による本件譲渡資産の譲渡その他本件事業譲渡を実行する義務は,クロージング日において以下の条件が全て充足されていることを条件とする。ただし,甲は,かかる条件の全部又は一部を任意の裁量により放棄することができる。
(1)本契約第10条に基づく乙の表明及び保証が,全ての重要な点において,真実かつ正確であること
(2)本契約に従い,乙がクロージング以前に履行すべき全ての義務を履行していること
2 本契約の各条項に基づく,乙による本件譲渡価額の支払い,本件承継資産の譲受けその他本件事業譲渡を実行する義務は,クロージング日において,以下の条件が全て充足されていることを条件とする。ただし,乙は,かかる条件の全部又は一部を任意の裁量により放棄することができる。
(1)本契約に基づく甲の表明及び保証が,全ての重要な点において,真実かつ正確であること
(2)本契約に従い,甲がクロージング以前に履行すべき全ての義務を履行していること

第12条(競業避止義務)

甲は,乙が別途合意する場合を除き,クロージング日から3年間,本件譲渡対象事業と競合する内容の事業を行わないものとする。

※競業を全部または一部許可することも可能です。全面競業禁止とする場合でも,営業の自由について,過度の制限とならないようにしなければなりません。

第13条(損害賠償)

甲及び乙は,本契約第10条に定める自己の表明・保証又は自己の義務の違反に起因して相手方当事者が損害等を被り又は負担する場合には,当該相手方当事者に対し,かかる損害等を賠償し補償するものとする。
2 前項に定める責任の範囲は,クロージング日から1年以内に,相手方当事者に対し,書面で通知・請求されたものに限るものとし,かつ,その請求金額は,本件事業譲渡価額の50パーセントを上限とする。

※無制限とすることも可能です。本契約書では,期間及び価額について制限を設けてみました。

第14条(危険負担)

本契約締結後,クロージング日までの間に天災地変その他不可抗力により本件譲渡資産に重大な変動が生じたときは,各当事者協議の上,本契約の条件を変更することができる。

第15条(解除)

甲及び乙は,本契約締結日以降,クロージングまでの間に限り,以下の各号のうちいずれかの事由が発生した場合には,相手方当事者に対し書面で通知することにより,本契約を解除することができる。
(1)相手方当事者の表明及び保証(第10条)に重大な違反があった場合
(2)相手方当事者に本契約上の義務の重大な違反があり,相手方当事者に対する書面による催告後,遅滞なくその違反が是正されなかった場合
(3)相手方当事者につき,破産手続開始,民事再生手続開始その他これらに類する法的倒産手続の開始の申立がなされた場合

第16条(公租公課等の負担)

譲渡財産に関する公租公課,保険料等は,日割計算によりクロージング日の前日までは甲が,クロージング日以降は乙が負担する。

第17条(秘密保持義務)

甲及び乙は,本契約締結日から2年間,本契約の交渉及び履行の過程において相手方より秘密情報として受領した情報,並びに本契約の存在及び内容について,法令等により必要とされる場合を除き,事前に相手方の書面による承諾なくしてこれを第三者に開示,漏洩又は公表せず,また本契約の目的以外に利用しない。ただし,本契約の締結又は履行のために必要かつ最小限の範囲で,それぞれの従業員及び弁護士その他秘密保持義務を負う専門家に開示する場合はこの限りではない。
2 前項に基づく義務は,以下の各号に定める場合には適用されない。
(1)相手方当事者から受領する前に自ら保有していた情報
(2)相手方当事者から受領する前にすでに公知となっていた情報
(3)相手方当事者から受領した後に,自らの責によらない事由により公知となった情報
(4)正当な権限を有する第三者から秘密保持義務を負うことなく入手した情報

第18条(合意管轄)

甲及び乙は,本契約に関連する一切の紛争について,横浜地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所にすることに合意する。

第19条(協議)

本契約に定める事項のほか,本件事業譲渡に関し必要な事項は,本契約の趣旨に従い,甲乙協議の上これを決定する。

平成25年10月21日

甲 税理士 東 京 太 郎  印
乙 税理士 中 央 花 子  印

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