「費用をかけてでも私選弁護人を依頼した方が良いのはどのような場合?」
まず,法の建前としては,弁護人は自分で費用をかけて依頼すること,つまり私選弁護人を依頼することが原則とされています(刑事訴訟法36条)。私選弁護人を依頼することができない,あるいは,依頼しない場合に,国選弁護人が選任されることとなります。刑事事件で弁護士と言えば国がつけてくれるようなイメージがあるのは,多くの被告人が資力を有しないため,国選弁護人と私選弁護人とでは,数量的に圧倒的に国選弁護人の方が多いからです。
皆さんは,テレビドラマなどを見て無意識に,例えばあなたが逮捕された場合,
- すぐに国が弁護士をつけてくれる
- 国がつけてくれる弁護士は無料である
- 来てくれる弁護士は優秀である
というイメージをいだいていませんか?
残念ながら,いずれも「誤解」であるといわざるを得ません。
- 1. 国選弁護人が就くのは原則として起訴後であり,初回の面会に来てくれるのは第1回裁判の2~3週間前が一般的である。
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まず,国選弁護人は,原則として被疑者段階では就きません。つまり,検察官が裁判所に事件を起訴していない段階,警察から呼出を受けただけの段階,警察に逮捕された段階,留置場に勾留された段階では就いてくれません。
起訴された後もすぐに来てくれるわけではなく,検察官が裁判記録を見せてくれるのが第1回の裁判が行われる日の2~3週間前であることから,2~3週間程度前に初回の面会に来るのが一般的です。
第1回の裁判が行われるのが起訴されてから1~2か月後であることから,起訴されてから半月から1か月経っても国選弁護人が面会に来てくれていないということも珍しくはありません。刑訴法改正により,平成18年11月から被疑者国選制度が施行となり,一定の重罪事件(死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁固にあたる事件。殺人、傷害致死、強姦のような、3人の裁判官で審理することとされている事件や強盗などの重大事件。)については,被疑者が依頼すれば,被疑者段階から国選弁護人を就けることができるようになりましたが,逆に言うと,現状では,その他の事件については被疑者がどれだけ希望しても,少なくとも国選弁護人すら被疑者段階では就かないということになります。
- 2. 国選弁護人も原則として有料である。
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国選弁護人なら「無料」かと言うと,必ずしもそうではありません。
資力のある被告人には,国選弁護人に支払われた報酬について,「訴訟費用」として判決により負担を命ぜられることもあり,法の建前から言うと,むしろそれが原則です(刑事訴訟法181条)。ただ,多くの被告人が資力に乏しく,支払能力がないため「訴訟費用」の負担を免除されていますが,資力のある被告人に対して国選弁護費用を含む訴訟費用の負担が命ぜられることも少なくありません。なお,国選弁護人の報酬は,1回の審理で終了している簡易な事件で,6~8万円程度が一般的です。
- 3. 国選弁護人は優秀とは限らない。
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国選弁護人を選ぶことはできません。
また,気に入らない弁護士が来たからと言って,被告人の都合で国選弁護人を解任することも,新たに私選弁護人を選任しない限り原則としてできません。
解任には裁判所の許可が必要であり,簡単な事情では許可されないことになっています(刑事訴訟法38条の3)。現在,日本の弁護士の数は,約2万5000人です。国選弁護人がつくとすれば,その中の「誰か」があなたの国選弁護人として就くわけですが,私も含めていろいろな弁護士が存在します。
何をもって「優秀」な弁護士というのかはわかりませんが,少なくともあなたから見てあなたに合う弁護士,合わない弁護士の区別はあると思います。国選弁護人の割当てがどのようになされているかと言うと,例えば,横浜地方裁判所の管轄地域においては,国選弁護人の就任希望者を年間の希望事件数に応じて予め担当日が割り当てられており,担当日に裁判が行われることになった事件が,希望順ないし機械的な配点により割り当てられています。
一部の特殊事件を除き,事件の性質に応じて弁護人を選ぶようなことはしていません。
国選弁護人を選任するということは,あなたの一生を左右するかもしれない弁護人の選定を,あなたの意思ではなく,偶然に委ねることになります。
「とにかく私選弁護人を依頼した方がよいのですか?」という質問に対しては,信頼ができる弁護士が見つかればという前提に立つ限り,「Yes」と答えようと思います。
資力の問題もあると思いますが,もし私が逮捕されるようなことがあったら(逮捕されるようなことはしていませんので誤解なく。),私は間違いなく,信頼のおける弁護士に費用を支払って早期に私選弁護人をお願いすると思います。
ただ,弁護士の費用は安くはないわけで,無駄なお金を使いたくないという心情もよく理解できます。
ですが,少なくとも以下の場合には,私選弁護人の依頼を考えるか,むしろ依頼してしまった方がよいでしょう。
なぜ?と思われる方もいらっしゃると思います。
ですが,ケースによっては,私選弁護人を依頼する価値が一番ある時期であると言えます。
事件を起こしてしまい,その日は自宅に帰してもらったが,その後に警察から呼出があり,場合によっては,事件から数日後に逮捕・勾留されるケースも少なくはありません。
普段は警察や犯罪と縁もゆかりもない方がいきなり警察に呼び出され,狭い取調室の中で無理な自白調書を作られてしまった,証拠を隠滅したり逃げたりするおそれもないのに,警察官がいきなり来て留置場に入れられてしまった,被害者側の一方的な言い分だけを理由に逮捕されてしまった,そういう事例は私が扱った事件の中には,枚挙に暇がありません。
もちろん,取調べの結果,証拠がなければ起訴はされません。逮捕,勾留されても10日から20日後には釈放されることになります。ですが,それで逮捕,勾留によって奪われたあなたの社会的信用,地位,名誉,貴重な時間は取り戻せるでしょうか?
日本の検察官は,現在,約2000名です。それら検察官が判断を間違わない保証はどこにもありません。間違いがあってはなりませんが,限られた時間,限られた証拠,限られた人材,限られた経験の中での判断を迫られる以上,「間違い」があるのが普通ではないでしょうか。
検察官が間違った場合,被告人にされた方は,長期裁判,長期勾留という恐怖の中で,99.9パーセントの有罪率を誇る日本の裁判を闘うことになります。
あなたに有利な証拠を集め,警察官,検察官の判断を是正する機会があるとすれば,それは少なくとも起訴される前であり,逮捕,勾留される前ということになります。
被害者の話などをもとに,警察官,検察官が考えているストーリーと,あなたが体験したと考えているストーリーが食い違っていることがあります。
多少の食い違いがあることは当然ですが,犯人なのかどうか,犯罪をしたのかどうか,犯罪を犯したとしても重要な事実について食い違っている場合には,事実関係を争っていくということになります。
その場合,あなたひとりで警察官,検察官と対峙していくことは極めて困難です。
あなたが逮捕,勾留されてしまっていれば,あなたに有利な証拠を自分で集めてくることは不可能です。
あなたが主張したいことを,法律的な主張にまとめる作業も必要になります。
もちろん,起訴後は国選弁護人がいずれ就くことになりますが,弁護人が必要になることははっきりしているわけで,もし私選弁護人を依頼することができるのであれば,できるだけ早い時期から依頼しておいた方がよいということになります。
起訴される前であれば間に合うこともありますし,あなた自身の記憶を含めて,時間が経過すれば経過するほど,あなたにとって重要な証拠は散逸していきます。
実際にあなたが犯罪を犯してしまっており,被害者に損害を及ぼしているのであれば,できるだけ早い時期に被害者に謝罪し,被害弁償をするべきです。
その場合,被害者との間の示談交渉が必要になりますが,あなたがいくら改心し,謝罪したいと考えていても,犯罪に遭われた被害者の方々は,「あなたの顔など見たくもない。」あるいは,「あなたと会うのも怖い」という感情を抱いていることが少なくありません。
あなたがいくら被害者と示談の話をしたいとい思い,希望しても,警察,検察は,被害者の許可なく,あなたに被害者の連絡先を教えることはしません。
それでも連絡先を知らない被害者と連絡を取りたければ,起訴後に開示される裁判記録中の記載や,他の情報をもとに尋ねあてるほかないということになります。
そうして,仮に被害者の連絡先がわかったとしても,犯罪者となったあなたが被害者に直接面会を求めていくことは,場合によっては更に被害者に対して心理的負担を及ぼすおそれもあります。
被害者の方には,弁護人限りという約束で,連絡先を教えることを許可してくださったり,示談交渉に応じてくださる方も少なくありません。
もし被害者の方に被害弁償,示談交渉をする窓口が,弁護人を通してという形以外にないのであれば,弁護人を依頼するほかありません。
被害者の方のためには,早期被害回復という意味において,できるだけ早い時期の被害弁償,示談交渉が好ましいと思います。
あなたにとっても,検察官があなたを起訴するかどうか,起訴するとしても罰金を求刑するのか懲役を求刑するのかを決める前に被害弁償や示談を済ませ,その上で処分を決めていただいた方がよいということになります。
前述したとおり,起訴前に国選弁護人がつくことは一部重大事件を除いてありませんので,被害弁償,示談交渉を弁護人に依頼するのであれば,原則として私選弁護人を依頼するほかないということになります。
逮捕,勾留された場合でも,家族や友人は,警察官の立会付きで,被疑者となって留置場に勾留されているあなたと面会することができます。
ですが,事件によっては,「接見禁止」という裁判官の決定により,弁護人以外の一般人との面会,書面の授受が禁止されたり,制限されたりすることがあります。
「接見禁止」が付された場合,外部との連絡を事実上遮断されることになります。
その場合,外部との連絡を取るためには,弁護人を依頼する必要がでてきます。
例えば,会社の代表者などが逮捕,勾留された場合には,その方と連絡が取れないことで会社の業務に重大な支障を生ずるおそれがあります。
弁護人であれば,警察官の立会なしで面会し,事件以外のことでも,一般的な事務連絡程度(罪証隠滅の指示等を除く)であれば,それを家族や会社に伝えることも可能です。
外部と連絡をとる必要性がなくても,事実関係に争っていれば,10日ないし20日の勾留期間をあなた1人でに闘い抜くことは極めて困難です。
前述したとおり,国選弁護人は被疑者段階では原則として就きませんので,可能な限り私選弁護人を就けた方がいいということになります。
事件によっては,弁護人が就いてもどうしようもない事件,どうにもしてあげられない事件があります。
例えば,覚せい剤を何度も使用していて前科が何犯もある方が,再び覚せい剤を使用して起訴された事件などがそうです。弁護人がどんな優秀な弁護活動をしたところで,見込みが裏切られることは稀です。
逆に,弁護活動にかかわらず,罰金の判決や,執行猶予の判決が下ることが十分予測される事件もあります。例えば,初犯の無銭飲食事件で,被害弁償が済んでいるケースなどは,弁護人もあまりすることがありません。
もちろん私は,刑事弁護人の仕事はただ依頼人に有利な判決や命令を取ってくることだけだとは考えていません。結論がわかりきった事件だからと言って,弁護人が手を抜いて良いわけがありません。
被害者に対する謝罪や弁償をしなくてよいと言っているわけではありません。
ここで申し上げたいことは,結論がわからない事案,微妙な事案であればあるほど,あなたの事件や被害者に対する対応の仕方,あなたが選任した弁護人の活動の仕方によって,結論が変わる可能性があるということです。
結論が変わる可能性があるのであれば,できるだけ早い時期に,あなたやあなたを待っている家族にとって,ベストな対応をとるべきではないでしょうか。
逮捕,勾留された場合でも,起訴後は保釈の請求が認められます。
保釈というのは,簡単に言うと,あなたの身体の代わりに保釈金を積み立てることで,勾留された状態から釈放してもらうことです。
保釈には一定の要件がありますし,保釈金を積めるかどうかという問題があります。
裁判官が決定する保釈金の金額は,事件や勾留されている方の資力に応じて様々ですが,一番多い価格帯は200~300万円程度です。
この保釈請求は,起訴された当日からできるようになりますが,その手続を弁護人に行ってもらおうと考えている場合,国選弁護人が面会に来てくれるのは,前述したとおり,第1回の裁判が行われる2~3週間前になるのが一般的です。
出来る限り早く保釈の請求を弁護人にしてもらおうと考えている場合には,どうしても私選弁護人を選任しておく必要があります。
かなり特殊なケースの話になってきますが,弁護人を複数名つけたい場合には,原則として,私選弁護人を選任するほかありません。
国選弁護人は,たとえば,殺人のような重大事件であっても原則1名であり,複数名が選任されることはむしろ稀であり,あなたが複数名ついて欲しいと希望したからと言ってあなたの希望で複数名が選任されるわけではありません。
弁護士の側で,1人では無理なので複数選任して欲しいと希望しても,それが認められることはそれほど多くはありません。
事実関係を争っており,事件が大規模かつ複雑な場合には,可能であれば複数の私選弁護人を依頼した方がよいでしょう。
通常は,あなたの方で複数弁護人を探してくる必要はなく,最初に依頼された私選弁護人が,応援を募ってくるという形になります。
そうではない場合でも,例えば,何かの事情で,毎日あなたのところへ弁護人が接見しに来てもらわなければいけないというような場合,1人の弁護人があなたのためだけに毎日留置場や拘置所に来ると言うことは極めて困難です。
その場合には,やはり複数選任が必要であり,複数選任のためには私選弁護人を依頼するほかないということになります。



